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エキスパートが解説する Dr.コラム

子どもたちのWITHコロナ

新型コロナの振りかえり

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のパンデミックの初期を振りかえると、小児の患者さんは大人に比べ非常に少なく、肺炎や呼吸器合併症などの重症者も稀でした1,2)。よく「子どもは新型コロナにはかかりにくい」といわれたものです。
 ところが2021年7~8月以降、デルタ株が流行し始めると、徐々に各地で小児患者が目立つようになり1)、2022年に感染力の強いオミクロン株に置き換わると、保育所、学校においてクラスターの発生が相次ぐ事態となりました3)

子どもでも重症になる?

 当初、小児の患者さんは新型コロナにかかっても軽症とされていたのに対し、2022年のオミクロン株の流行以降、熱性けいれんなどの合併が報告されるようになりました4)。また、生命の危機や後遺症につながる中枢神経合併症である脳炎や脳症の報告も、新型コロナにかかった小児でみられました。
 頻度は稀ですが、死亡例も出ています。2022年1月~9月までの9ヵ月間で、新型コロナ感染後の20歳未満の死亡例が50例報告されており、最多が脳症などの中枢神経系の異常19例(38%)、次が心筋炎、不整脈などの循環器系の異常9例(18%)でした5)。また、死亡例50例のうち29例(58%)は基礎疾患のない、元気なお子さんだったのです5)
 小児の感染に関して過剰に恐れる必要はありませんが、流行規模が大きくなれば実数として小児の患者が増加し、重症化する子どもも増えることを忘れてはなりません。

重症化のきっかけを見逃さないコツは?

 小児は生理機能が未熟なため、急激に容体が変化する可能性があります。そのため、お子さんが新型コロナにかかった場合は、全身状態や意識レベルを観察し、ささいな変化に目を向けましょう。
 まずは意識障害や脱水症に注意が必要で、脱水症は「おしっこの量が減っている」「泣いても涙があまり出ない」「皮膚や唇が乾燥している」などがサインとなります。また、「ウトウトして呼びかけても起きない」「意味の分からない言動があって機嫌が悪そうに見える」といった場合は、意識障害が進行している可能性があります。これらの症状がみられた場合は、新型コロナの重症化を防ぐためにも、すぐに医療機関を受診してください。

どうする?小児の感染対策

 小児の感染対策についてはどう対応すればいいのか、悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。小児の特徴を踏まえつつ、私の考え方を述べたいと思います。

マスク編

 小児の発育、発達レベルは個々によって違います。同年齢でも上手にマスクができるお子さんがいれば、マスクが嫌い、落ち着かないなど、多様性があるのが小児の特徴といえます。
 感染対策上、マスクが有効なのは確かですが、そこはお子さんの特性と、その場の状況を勘案しながら対応することが現実的です。マスクをつけていてもずれたままだったり、ずっと手でいじったりしているようなら、その感染対策は逆効果です。マスク着用が困難な場合は決して強要せず、周囲がそのお子さんを守り、かつ感染を広げないといった考え方でよいのではないでしょうか。
 マスク着用が個人の判断になる以前に、政府からは、「2歳以上」を基準に「可能な範囲でマスクの着用を求める」との声明が出されていましたが6)、年齢による線引きだけでは現実的とはいえません。仮にマスクを着用できないお子さんがいても、その特性を大事にしながら、成長を助けるくらいの気持ちで見守って欲しいと思います。

WITHコロナ生活に必要なことは?

手洗い編

 また、新型コロナウイルスは手指を介しても伝播していくため、感染対策として手洗いは有効です。ただ、せっけんを用いた過剰な手洗いは手荒れを招くことがあるため、場合によっては流水で、冷たい冬場ならお湯を使う方が子どもは嫌がらないかもしれません。

感染対策の考え方

 私たちはこれまで、季節性インフルエンザをはじめ、さまざまな感染症を経験してきました。しかしその中でマスク、手洗いといった感染対策をとりたてて重視することはありませんでした。今回、新型コロナをきっかけに、身をもってその重要性を理解できたのではないでしょうか。
 感染対策が日常生活の中心となる必要はまったくありませんが、「何かに触れば手を洗う」「ご飯を食べる前には手を洗う」といった習慣を身につけることは、これからもさまざまな感染症への対策に役立っていくと考えられます。

小児へのワクチンの考え方って?

 また、新型コロナに関する親御さんの関心事の1つに、「ワクチン接種」の話題があると思います。そこでここからは、感染症に対する「予防」のあり方について、私の考え方を述べてみたいと思います。
 予防には大きくわけて、2つの方法があります。1つは先に述べたマスク着用、手洗いといった、どんな感染症にも共通する手段です。もう1つは特定の感染症にだけ通用する手段で、それは「その感染症に対する免疫をつける」「その感染症に対して医薬品を予防投与する」のどちらかです。
 これを新型コロナにあてはめると、新型コロナには現時点で予防投与できる医薬品はなく、新型コロナに対する免疫をつける方法としては、「新型コロナにかかること」「新型コロナワクチン接種」となります。ただ、あいにくどちらも完璧な手段とはいえず、その効果は100%保証されているわけではありません。たとえば、麻しん(はしか)は「終生免疫」といって、一度かかると一生涯免疫を獲得できますが、新型コロナやインフルエンザは1回かかっても2回、3回かかるケースがあり、ワクチンの有効率も100%ではありません。
 しかも、大人に比べて小児の重症化リスクが少ない1)ことを考えると、親御さんにとって、健康なお子さんへの接種にはメリットを感じにくいかもしれません。しかし、予防の手段は大切であり、免疫をつけるという意味では予防の選択肢として考えていただきたいと思います。
 これまで公開されている国内、海外のデータを確認する限り、5~11歳の接種においても、ワクチン接種後の副反応は、12歳以上と比べて頻度は低く、安全性において大きな懸念事項は認められないと考えられます7)。そして今後、さらに小児に対する安全性のデータが蓄積されていく方向にあることは、1つの知識として知っておいて欲しいと思います。

アフターコロナの子どもたち

 新型コロナのパンデミック以降、多くの小児が、発達の過程において制限された生活を送らざるを得なくなりました。マスク越しの目だけしか見えない状況で保育士さん、先生、友達の表情を読み取るしかなく、「子どもの発達に影響するのでは」という懸念も聞かれたほどです。
 たしかに、コロナ禍の数年間、マスクを着用していなかった頃に比べ、できなかったことが多かったのは事実でしょう。しかし今それを振りかえり、後悔しても仕方のないことなのです。現に2023年5月8日に5類へと移行してからは、一定の感染対策を維持しつつも、ほぼコロナ禍以前の日常生活、社会に戻りつつあります。このように、人間の社会生活は日々の積み重ねで成り立ち、軌道修正ができて、多くの可能性を秘めているのです。
 コロナ禍の3年間、何らかのダメージを被ったとしても、その経験を糧にもっとよい生活、よい社会をつくることが可能です。そのためにも一般的な感染対策や、感染症の基本は予防だという考え方も大事です。その中でお子さんのあらたな可能性を探り、よりよい未来へと導いてあげて欲しいと思います。

  • 1)厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-.性別・年代別重症者数. https://covid19.mhlw.go.jp/ (2024年2月8日閲覧)
  • 2)Yasuhara J, et al. Pediatr Pulmonol. 2020 Oct;55(10):2565-2575
  • 3)厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-.集団感染等発生状況.https://covid19.mhlw.go.jp/ (2024年2月8日閲覧)
  • 4)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.「データベースを用いた国内発症小児Coronavirus Disease2019(COVID-19)症例の臨床経過に関する検討」の中間報告:第3報. オミクロン株流行に伴う小児COVID-19症例の臨床症状・重症度の変化. 2022年3月28日. https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20220328_tyukan_hokoku3.pdf (2024年2月8日閲覧)
  • 5)国立感染症研究所実地疫学研究センター、同感染症疫学センター. 新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報). 掲載日:2022年12月28日(一部訂正:2023年1月13日). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/11727-20.html (2024年2月8日閲覧)
  • 6)第85回(令和4年5月25日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード. マスク着用の考え方及び就学前児の取扱いについて. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000942851.pdf (2024年2月8日閲覧)
  • 7)Walter EB, et al. Engl J Med. 2022; 386:35-46
忽那賢志 先生
NAME

中野 貴司 先生

nakano takashi

PROFILE

川崎医科大学小児科学教室 教授

小児科専門医・指導医、感染症専門医・指導医。
三重大学医学部小児科や国立病院機構三重病院などでの勤務、ガーナ共和国野口記念医学研究所・中国ポリオ対策プロジェクトへの派遣などを経て、2010年より現職。小児科、感染症、予防接種が専門。